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秋の夜長に思い出話

高校3年生の秋に受けた模擬試験のことを思い出した。
現代文は評論と小説パートに分かれていて、その小説パートの問題文は髙木のぶ子著「月日貝」を抜粋したものだった。痴呆になる予兆があり病院へ行った妻がその帰り道、自分自身が誰なのかも分からない状態になったら、2人の思い出の場所にある崖から自分を突き落としてくれと夫に頼むところから話は始まる。そして実際彼女が自分を認識することが出来なくなった時、夫が妻を連れてその思い出の場所へ旅をする、大まかに言えばそんな話だったと思う。
全ての試験が終了した後紀伊國屋に走り、この作品の続きを読もうと試みたものの、試験文で抜粋されていたパートが本編の最後の部分で、「この後2人はどうなったのー?」と、本棚の前で何とも言い難い思いをしたことを今でも覚えている。「月日貝」は、高校時代に受けた現代文の問題文の中で最も心を奪われた作品で、試験中周りから鼻水をすする音が聞こえたのもこの時が最初で最後だったなぁ。その当時、痴呆になった連れを介護することが苦になった老夫婦が心中したり、一方を殺害するという事件を耳にすることが多かったこともあり、余計に主観的な読み方をしていたのだと思う。

そんなことを思い出したのも、あるドラマを見たことがきっかけだった。老夫婦の話は、私の心の琴線に触れる。自分もいつかそうなるかもしれないという思いがあるからか。いや、その前に、お年寄りと呼ばれる年まで生きることが出来るといいな~(^v ^;笑)
 

【お買い物】

テレビをつけて見るチャンネルは相変わらず決まっていて、その一つはNHK。総合・教育・BSそれぞれに興味を魅かれる番組が多い。先日再放送されていたドラマも良作だった。「お買い物 ~老夫婦の東京珍道中」がそれである。

--- イントロダクション ---

田舎の農村に暮らす老夫婦の元に、東京で開かれるカメラの見本市の知らせが届く。カメラが好きだった若い頃を思い出したおじいさんは、数十年ぶりに東京に行くことを決めた。当初反対していたおばあさんも一緒に行くことに決め、2人で電車を乗り継ぎ東京へ向かう。


おじいちゃんおばあちゃんにありがちと思われる会話から始まるこのドラマは、演技しているのか否かよく分からなくなるくらい、終始自然な雰囲気に包まれていた。何と言っても、あの会話の間が◎
おじいちゃん「〇〇さんは、えっと・・・・・もう死んでんだっけ?」
おばあちゃん「殺さないで下さい」
というような会話がしんとした2人の間に映える。
東京へ到着し、最初に入ったコーヒーショップでおばあちゃんはスムージーを頼むのだが、ストローから吸い出せないというハプニング発生。おじいちゃんが、ストローの内側に蓋があるんじゃないかと言い出したところから始まる2人の言葉のやりとりに笑ってしまった。おじいちゃんは、見本市で散々悩んで買ったカメラを買った後すぐに首から下げていたり、孫の家に泊まる際、布団を足の間に挟まないと怖い夢みるから眠れないと言い出したりと朴訥ながらも茶目っけたっぷりな人柄。そんなおじちゃんを演じた久米さんが演技している姿を拝見するのは初めてだったのだが、これを機に久米さんが出演されている他作品も見てみたくなった。これは渡辺さんにしても同じ。そして、渡辺さん演じるおばあちゃんの台詞で印象的だったのは、
孫「おばあちゃんもおじいちゃんの知らないとこあるの?」
おばあちゃん「ほとんど知らないよ」
というところ。そして、最後の台詞を言った時の表情に含みがあって、これもよかった。

こういうタイプのドラマが、非現実的な設定のドラマの代わりに増えるといいのにと思う。でも、テレビドラマくらい非現実的であって欲しいと思う人が実際は多いのかもしれない。



脚本:前田司郎
出演:久米明・渡辺美佐子・市川実日子
73分 (2009)


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Talk Rubbish, You Losers

比較的早い時間に放送されるテレビドラマは、視聴者層が広いせいで冒険することが難しい、そしてその逆が深夜ドラマ--- そんなことを言っていたのは誰だったかな。

昨年放送されていたドラマ「THE QUIZ SHOW」も新しいスタイルを持つドラマの1つだったと思う(主演の2人がラーメンズの片桐さんとナックスの戸次さんだということに、まず驚いた)。そして印象深かったことの1つは、佐藤江梨子さんがゲスト出演した回での彼女の台詞「うるせーんだよ」。その言い方に魅かれ → 検索くん。そして、彼女が主演する映画があることを知ったのが昨年の秋。
随分間が空いてしまったけれど、今月数週間に亘ってその主演作品が市内の映画館で上映されていることを知り、早速見に行ってきた作品の感想を一つ・・・¢(°‐ °)


【腑抜けども、悲しみの愛を見せろ】
c14d9a3e.jpg
--- イントロダクション ---

「私は絶対、人とは違う。特別な人間。」
女優志望の姉・澄伽は、‘周りが自分の才能に気づいていない’と言い張る、自意識過剰の勘違い女。一方、妹・清深はそんな姉に怯えつつ、姉をモデルにした漫画を書き続ける。両親の訃報を受け、東京から山間の集落に舞い戻った姉と実家に住むシニカルな妹、そして兄・兄嫁を巻き込んだ物語。

「やっぱお姉ちゃんは、最高におもしろいよ。」
そう言い放った妹の意図とは・・・



本谷有希子さん原作の戯曲を元に、小説・映画化と展開されたのがこの作品、‘腑抜けども、悲しみの愛を見せろ’。予告・レビュー、それに加えて、動画サイトで見つけた本作に寄せる原作者のインタビュー放送を視聴してから見に行った本作。予想していたよりも、あっさり終わってしまった。
冒頭、両親がトラックに轢かれて亡くなることに始まり、澄伽が実家に帰って来てからの横暴すぎる振る舞いに兄嫁の持つ特殊なバックグラウンド等々、悲惨で理不尽なシーンや設定がどれも重く感じないのは、テンポよく進むストーリーの流れにあるのかもしれない。頭を悩ませる物語の複雑さも無く、ここで一旦話は終わるが、私達(姉妹)の話はこれからが本番、まだまだ続くというような終わり方で、結構すっきりしていたように思える。
c14d9a3e.jpg物語の中では、姉を題材に妹が描いた漫画のジャンルがホラー(楳図かずお風)というところがおもしろい。手紙のくだりで、私はてっきり妹が返事を書いているのだと予想していたのだけれど・・・。

そして、4人の主な登場人物、姉・妹・兄・兄嫁、の中で、私の眼から一番特異に見えたのは兄。あらすじを読んでまともそうだと思っていたのに・・・なんでだろ。この4人の中では特に浮いているように見えた。
ズレたところがある兄嫁を演じた永作さんが評価されているのは、きっとやり過ぎなかったからじゃないかな。あのちょっと変わった人の演技に力を入れ過ぎると、ただのコメディーになりかねない。その辺りの演技力が評価されているのかな、と思った。


原作者の本谷有希子さんの経歴を読んで、私が子供の頃見ていたアニメに声優として関わっていることに驚きだった。近年多方面で活躍されている方だし、彼女の書いた本/戯曲がまた映画化されることがあるかもしれないな~。まずは、「生きてるだけで、愛」を読んでみたい。



原作:本谷有希子
監督:吉田大八
出演:佐藤江梨子・佐津川愛美・永作博美・長瀬正敏
112分 (2007)



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